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8話 原作終盤の裏側で――彼の戦いをそっと支えた日

TL小説に転生した腐女子は推し様を攻めたい!ティオ ルシフェリア 原作終盤の裏側で――彼の戦いをそっと支えた日 TL小説に転生した腐女子は推し様を攻めたい!
※本作品は過去作をもとに、一部表現を調整した全年齢版です。物語の世界観はそのままに、より読みやすく再構成しています。


気づけば、私はティオ様とすっかり仲良くなっていた。
最初のうちは昼にお茶をしに行くだけだったのに、最近では夜にも足を運ぶようになっていた。

――なぜなら、最近のティオ様はどう見ても様子がおかしかったから。

寝不足で疲れた表情。
日に日に体が細くなっていく気がして、さすがの私も心配になった。


(……こんなに根を詰めているってことは、きっと今、原作で“レオン様の呪い”を解く最終段階なんだろうな。私は原作を変えないためにアドバイスもできないし、力にはなれないんだけど……)

でも、無理をして倒れられても困る。
だから夜にも様子を見に来るようになったわけだ。

(原作では、こんなにティオ様が苦しむ描写はなかったのに。あっさり手がかりを見つけて、すぐに解決していたのに……本当は、こんなに大変だったんだ)

そう――この世界の人たちは本当に生きている。
原作を読んでいたからといって、登場人物のすべてを知っていたわけじゃない。
私が見ていたのは、ほんの一面にすぎなかったのだと痛感した。


「……ティオ様」


机に突っ伏しながら本をめくる彼に声をかけるが返事はない。
空のカップがいくつも並び、震える指先を見て胸がチクリと痛んだ。


「少しでも横にならないとダメです。……眠らないと体を壊しますよ」


(ねえティオ様。レオン様と結ばれることはないのに、そんなに命削るみたいに頑張ってるの……?)

その姿があまりに健気で、眩しくて、切なくて――胸がぎゅっとなる。


(ティオ様……あなたって、どうしてそんなに真っ直ぐなの)


目の下にクマを作ったまま、ティオ様はふっとこちらに目を向け、小さな声で尋ねてきた。


「……どうして、君がこんなことを?」

「こんな姿の推し、放っておけません。……レオン様の呪いを解くことには関われませんけど、ティオ様の心配くらい、させてくださいよ」


(本当はレオン様が来て、毛布でもかけてくれたら完璧なんだけどな……)


私はティオの手からペンをそっと取り上げる。


「ティオ様なら、絶対にレオン様を救えます」


そう言った瞬間、彼の肩がぴくりと動いた。
返事はなかったが、その小さな反応が妙に心に残った。


「もう限界でしょう?少しだけでも横になってください。奥に仮眠室がありますよね?」

「……でも、まだ――」

「呪いを解く前にティオ様が倒れたらどうするんですか。レオン様のためにも休んでください」


諭すような声に押され、ティオ様はようやく腰を上げた。
私は彼の手を引き、研究室の奥にある仮眠室へと連れていく。


「はい、横になってくださいね」


大人しく寝台に横になるティオ様。


「髪、外してもいいですか?」

「……うん」


寝にくいだろうと、結んであった髪をほどいた。


(……うわ、さらさら……)


よほど疲れていたのか、すぐに寝息が聞こえてきた。

――そして、私は彼の髪に目を留める。

(原作ではもうすぐ切っちゃうんだよね。この綺麗な髪、もったいないな……)

そう思った瞬間、自然に指が動いていた。


(ほどいたけど、ちょっとヘアアレンジしちゃお)


長い茶髪を撫で、ふわりとすくい上げ、手早く三つ編みにしていく。

(できた。可愛い……寝てるうちに……)

ごそごそとノートを取り出しスケッチをして、静かに立ち上がろうとした時――


「ルシフェリア……」


名前を呼ばれたと同時に、彼の指が私の手に絡んだ。

寝ているとは思えないほど、しっかりと握る手。


(ティオ様……?)


でも彼は目を開けず、何も言わなかった。


(寝ぼけてるのかな……)


そっと手を握り返し、しばらく様子を見守った。


(ティオ様ってほんとスキンシップ好きだな……原作の番外編でもレオン様が言ってたし。距離感がおかしいって)

やがて規則正しい寝息が聞こえてきたので、静かに手を離す。


「……じゃあね。少しだけ、おやすみなさい」


そう告げて、私は部屋を出た。






数時間後――

仮眠室の静けさの中で、ティオはゆっくり目を覚ます。


「ん……熟睡してたな。作業に戻らないと」


作業場に戻る途中、ふと鏡が目に入る。
三つ編みになっていることに気付き、ふっと笑みが零れた。


「……はは、ルシフェリアめ……」


自然と記憶が蘇る。
――あの小さな手のあたたかさと柔らかさ。

気づけば、無意識に自分の指先を見つめていた。






その後も夜ごと様子を見に行き、彼が無理しないように見守り続けた。
疲れた顔をしていても、ちゃんと眠ってはいるようで少し安心した。

ただ見ていることしかできないのは、もどかしかったけれど。

――そして、しばらく経ったある早朝。

皇帝即位を知らせる号外が配られた。

(新皇帝が即位したということは……もう呪いが解けてるはず!)

原作では皇帝即位の数時間前にレオン様の呪いが解かれた。
すべてが終わり、彼らの戦いが報われた日――

真っ先に思い浮かんだのは、やっぱりティオ様のことだった。

(やっと終わったんだ。……倒れてないといいけど)

急いで私は癒術理院へと向かった。


研究室の扉を開けると、ソファで眠るティオ様の姿があった。
白衣はずり落ち、靴も脱げかけ、分厚い記録書が片手にある。


(ティオ様……)


私はそっと近づき、彼の肩を揺らす。


「ここじゃ風邪を引きますよ」


眠たげな瞳が私を見て、何かを理解したように細められ、少しだけ笑った。


「……ルシちゃ……全部、終わったよ……」

「はい。……お疲れ様です」


目元が赤く、少し潤んで見えた。


(私だけは知ってる。どれだけ頑張ってきたかを)


私は彼の手を引いて仮眠室へ連れていく。
寝台に横になったのを見て、毛布を掛けようとしたその瞬間――


「……ルシフェリア」

彼の手が私を引き寄せ、そのまま抱きしめられた。


「きゃっ!」


胸の中に倒れ込む形になり、温かい声が落ちてくる。


「……ありがと。君がいてくれて……本当に助かったよ」


ティオ様は横になったまま、私をぎゅっと抱きしめてくる。
声は温かかったけど、少し掠れていた。


(……長年頑張って来たんだもんな……切ないな、こんなに頑張ったのにレオン様への想いは報われないなんて……)


私も労わるように少しだけ、ぎゅっと抱きしめ返した。


(疲れてると、人肌恋しくなっちゃうよね。……レオン様の代わりにぎゅっとしてあげよう……)


しばらくすると寝息が聞こえてくる。
私はそっと体を離すと、乱れた髪の毛を優しく撫でて整えてあげる。


(ああ、やっぱり長い髪も素敵……原作によるともうすぐ短くなるし、この間も書いたけど今のうちに追加で描き残しておこう……こんなの何枚あってもいいからね)


しばらく見守って、彼がそのまま眠っているのを確認して、私は立ち上がる。


(……レオン様じゃないけど、”応援”してる人は、ここにもいますから)


そっと扉を閉め、私は部屋を後にした。


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