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7話 鈍感令嬢とすれ違う恋心

TL小説に転生した腐女子は推し様を攻めたい!ティオ ルシフェリア  鈍感令嬢とすれ違う恋心 TL小説に転生した腐女子は推し様を攻めたい!
※本作品は過去作をもとに、一部表現を調整した全年齢版です。物語の世界観はそのままに、より読みやすく再構成しています。


ルシフェリアは今日も研究室に現れた。
僕の休憩の合間を狙ったように「暇なんです」と笑ってやって来るのが、もう習慣になっている。
気づけば彼女の顔を見ること自体が、僕の日課になっていた。


(……所詮、僕なんてただの暇つぶし役なのかもしれない)


けれど、それでも。
彼女の笑顔を見られるだけで嬉しいと感じてしまうことを、まだルシフェリアは知らない。


研究室の窓から吹き込んだ風がひやりと肌を撫でた。
視線を向けると、ルシフェリアの肩が小さくすくんだように見えた。


(……寒いんだろうか)


何も言わず、着ていた白衣をそっと肩にかける。


「えっ……ありがとうございます、ティオ様」


ぱっと見上げた彼女の笑顔に、胸の奥がきゅっと縮んだ。


(……少しくらい伝わればいいのに。僕が、君を特別に思ってるって)


心の中でそう願った、その直後。


「ティオ様って本当に優しいですよね~! 誰にでも優しくできるところ、素敵だなって思います!」


頭のどこかで、何かが崩れ落ちる音がした。


(……誰にでも? 僕は違う。誰にでもこんなことはしない。君だから、したのに……)


白衣の下でわずかに震えた指先に、ルシフェリアは気づかない。
ただ嬉しそうに笑い、まっすぐにこちらを見ている。


(……やっぱり、何も伝わってない)


肩を落としながら彼女の姿を見つめていると、白衣の襟元に顔を近付けて――


「ティオ様の匂いします。……いい匂い」


その一言で呼吸が止まった。
喉の奥まで心臓がせり上がってくる。


(……だめだ、絶対顔赤い。なんでそんな顔で、そんなことを……君はどうして平然としていられるんだ)


声も出せず目を逸らす。


「落ち着く香りです。好きです、ティオ様の匂い」


(……好きなのは“匂い”って意味だって、わかってる。でも……)


舞い上がる気持ちと、きっと何とも思われていないからそんなこと言えるのだろうという気持ちの間で揺れる。
せめて少しでも意識して欲しくて、勇気を出した。


「……指、冷たくない?」


自然を装いながら、そっと手を差し出す。
彼女の手を両手で包み込むように握った。

小さくて、柔らかくて、ほんのり温かいけど、指先だけは冷えている。
その手の感触に、温度に、たったそれだけのことなのに胸がどきどきする。


「……ティオ様、あったかい……!」

僕の意図など気に留めることもなく、満面の笑みで子供のように喜ぶ。


「それに……ティオ様の手、ほんと綺麗ですね。長くて細くて、節の形も……なんか凄く好き」


(……すごく好き、って……?)

戸惑う僕の様子には目もくれず、彼女は観察するように手をじっと見つめてくる。

「……あとでスケッチしよ」

(……えっ)


さらりと言われ、思考が止まった。
“資料”として僕の手を見るその目は、真剣そのものだった。


「身長そんなに変わらないのに、ティオ様って手大きいですね」

「……いや、けっこう違うと思うよ。僕、君よりずっと背高いから」


反射的に声に力が入った。
悪気がないのはわかるけど、悔しかった。

「あ、でも細身だから余計に大きく見えるのかも」

「……そう」

気に留める様子もなく、彼女は僕の手を自分の手と重ねて指先を比べている。

「ほら、こうすると結構違うかも」


無邪気な笑顔に、何とも言えない気持ちが込み上げる。
触れているのに、心だけは届かない。


(君と触れられて嬉しいのに……少しだけ苦しい)







私は白衣に包まれ、ティオ様の手を観察していた。

(……あったかい。指も血管の浮き出具合も最高だし、腕のラインまで完璧……!)


ぽかぽかとした温もりに安心しながら、沢山スケッチしようと心に決める。

「だいぶ温まりました。ありがとうございます。……ティオ様って体温高いんですね。……記録しておきます」


そうお礼を告げると、彼の手がゆっくり離れていった。

「はぁ……ほんとに鈍感だな、ルシフェリア」

「……え? ごめんなさ――んひゃっ!?」


突然頬をむにっと引っ張られて声が裏返る。


「ティオひゃま、なにひてるんれすか!?」

「……もうちょっと、自覚してほしいんだけど」


両頬をむにむにしながら、ティオ様は少し不機嫌そうに見えた。


「なにをれすか!?……いひゃいっ! いひゃいれすっ!」

「……ぷっ」

ティオ様は不意に笑って、手を離した。

「ごめん……つい、可愛くて」


私の顔を見ながらぽつりと、言葉が零れた。

「ふふふ、ファンサいただきましたね。ありがとうございます」


にこやかに返すと、ティオ様の手がぴたりと止まった。

「……ふぁん……さ……?」


小さな呟きは、どこか呆然としていた。


「ファンサービスの略ですよ!私を褒めてくれたから……ふふ、ありがとうございます」

「……あ、うん……?」


二人の想いは交わらぬまま、物語は“原作”の終盤へと進んでいく――。


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