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6話 片思い未満の距離

TL小説に転生した腐女子は推し様を攻めたい!ティオ ルシフェリア 片思い未満の距離 TL小説に転生した腐女子は推し様を攻めたい!
※本作品は過去作をもとに、一部表現を調整した全年齢版です。物語の世界観はそのままに、より読みやすく再構成しています。


――それから、私は癒術理院へよく通うようになった。

ティオは毎回「また来たの?」と呆れたように笑うけど、ちゃんと相手をしてくれる。

この世界で唯一、私が転生者だと明かした人物。
それを聞いても態度は変わらず、疑いもしなければ深く追及することもない。
そんな彼は……今では正直、“心を許せる友達”になっていた。

今日もまた、彼が淹れてくれた紅茶を飲みながら、二人で他愛もない雑談をしていた。

「ティオ様、あの……絵を描いてもいいですか?」

「……絵? ……まぁ、好きにしたら?」

「例の妄想ノート……いえ、“聖典”に挿絵を付けたいと思ってたんです」


そう言って私はノートを広げ、そそくさと彼の隣に移動しペンを走らせた。

ーーーカリカリ。

「……まつ毛、長くて繊細ですね……」

「……………」

ーーーカリカリ。

「顎のラインも……すごく綺麗」

指でそっと輪郭をなぞると、ティオの喉仏がぴくりと動いた。

「…………っ」

ーーーカリカリ。

「わ……喉仏、動くの色っぽい……」

今度は首筋へと手が伸びてしまう。

「!! 君、本気でやってる……?」

「……え? あっ、ごめんなさいっ! ……夢中で……」

慌てて手を引こうとしたら、逆にティオに掴まれてしまった。

「……心臓に悪いんだけど……いちいち」

(……そんなに気に障った?)

「すみません、もう触りませんから……」

「いや……触るなとは言ってないけど」

そう言うと、彼は掴んだ手をぎゅっと握りしめ、そのまま見つめながら少し間を置いて問いかけてきた。

「……君、僕のこと……“推し”って呼んでたよね? 本当にただ応援してるだけなの?」

「え……? はい、もちろん。推しとして応援してます!」

私が即答すると、ティオは一瞬だけ目を見開き、それからわかりやすく肩を落とした。

(……え? なんかまずいこと言った? なんでそんな顔するの……?)

彼の手が、どうしてあんなに優しく震えていたのか……その時の私には、まだわからなかった。

(……もしかして、寒かったのかな……?)






僕は、引っ込めようとした彼女の手を反射的に握っていた。
無意識のうちに。
その瞬間から心臓は落ち着かず、じんわり残る指先の温もりが鼓動と混ざって染み込んでくる。


(……少しくらい、意識してくれてたらいいのに)


そう思いながら彼女の反応をうかがい、顔を覗き込んでみた。
けれど――

「……それでですね!このページに“執務室でレオン様に壁ドンされるティオ様”の挿絵を入れたくて――」

彼女は当たり前のように話題を切り替え、楽しそうに続けていった。

(……え? ……まさか全然意識されてない……?)

期待した自分が、途端にバカみたいに思えて。
指先に残る熱だけが、やけに恥ずかしかった。

手をそっと離すと、ルシフェリアは何事もなかったかのようにまた描き始める。
視線を向けてくるたび、髪を描き足し口元を整えるたび、僕の心臓は確実に荒ぶっていった。

“推し”――。
その言葉の意味も、どこまで本気なのかも、僕にはまだ掴めない。

ただ一つ。

彼女の手に触れた瞬間、胸が強く鳴ったのは事実だった。

今までにない感覚。
僕はいつだって“変わってる”と言われてきた。
恋も人付き合いも、他人事のようで。
誰かに心を乱されたことなどなかったのに。

けれど彼女と出会ってから、何度もペースを乱されている。

突拍子もない発言を真顔で返すところ。
距離感ゼロの笑顔。
そして……あの瞳。

――君は、僕にとって一体なんなんだろう。


「そういえば……ティオ様の恋バナ、まだ聞いてませんよね」


ふとルシフェリアが手を止め、身を乗り出してきた。
水色の瞳がきらきらと輝く。


「……恋バナ?」

「はい、恋愛の話が聞きたいです」


予想外の問いに、カップを置いた手が止まる。
胸の奥がざわめく。


(……どうしてこんなに気になる? ただ、男として見られてないのが癪なだけ?)


よくわからないまま、彼女に少しでも気づいて欲しくて口をついた。


「……最近、やけに気になる人はいるけど」


そう言った瞬間、彼女の目がさらに輝いた。


「っ、やっぱり! ついに認めましたね……レオン様への想いを!」


うっとりと夢見る乙女のような表情に変わる。


「いや、違――」

否定しかけた声は、最後まで届かなかった。
彼女は妄想の世界へ突入してしまい、僕の声など耳に入っていないようだった。

「……で!やっぱり私が書く聖典では、体格差を一番大事にしてるんです!」

「……体格差?」

「はい! レオン様は背が高くてがっしりしてて筋肉隆々で……! だから繊細で細身なティオ様が受けになると対比が最高で――」

「……うけ?」

「はっ!? いえその、ティオ様は最高ってことです!」


慌てた様子の後、再び満面の笑みに戻る。

「だって! 白衣の下は華奢で儚げで、反抗する生意気な感じも良くて……でも押し倒されたら体格差あって、片手でぎゅっとされて、抵抗できない感じが……!」

「……ははは。随分と逞しい妄想力だね」


彼女には全く特別に思われていないのが痛いほどわかる。
それと同時に、自分に芽生えた気持ちとの温度差を突きつけられる。

さっき掴んだ彼女の手の感触。
温かくて柔らかくて……心臓が跳ね上がった。

(この気持ちは興味? それとも……もっと――)

問いが浮かんでは、彼女の弾む声にかき消されていった。


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