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55話 転生侯爵令嬢、特注下着を作る!?悪だくみが止まらない

TL小説に転生した腐女子は推し様を攻めたい!ティオ ルシフェリア 転生侯爵令嬢、特注下着を作る!?悪だくみが止まらない TL小説に転生した腐女子は推し様を攻めたい!
※本作品は過去作をもとに、一部表現を調整した全年齢版です。物語の世界観はそのままに、より読みやすく再構成しています。


翌日、すっかり元気に動けるようになった私は、下着をオーダーすべく工房へと向かい、カミラの元を訪れていた。
朝の陽射しが差し込む工房は、糸の匂いと染料の残り香が混ざり合って、どこか懐かしいような温もりがあった。

「こんにちは、ミルフォード嬢。今日はドレスのオーダーですか?オーダーするのに工房まで入ってくるのはミルフォード嬢くらいですよ」


そう言いながらも、カミラが笑顔で迎えてくれる。



「いいえ、今日は下着の相談にきたんです」


にやりと笑い返すと、カミラがぱちりと瞬きをする。
驚いた表情のまま、彼女はペンを手に取り、いつものように真剣な目つきで作業机に向かう。

結び目の位置やレースの使い方、快適さと可愛さの両立──。
細部まで説明すると、カミラは頬を染めつつも、さらさらと図面を引き始めた。



「ね、これすっごくいいでしょ?」

「……こちらは比較的短期間で完成するかと」


咳払いしながらそう言うと、カミラは図面を描く手を止め、静かに顔を上げた。


「実はお嬢様が付けている胸の下着は実は販売してないんです。非常に画期的だと思うのですが……なにせ、馴染みがないもので。ドレスにはコルセットなしでも固定できるようにしっかり胸当てを付けて対応してるんです」


改めてこちらの世界の常識と、自分の常識が違うことを痛感する。


(そういうものなのか……むしろ私にとっては、ブラなかったら変な感じするくらいなんだけどな)


カミラは言葉を区切って、少しだけ申し訳なさそうに微笑む。


「ですから、上下どちらもお嬢様特注となります」

「大丈夫です!お金はいくらでも払いますから、また特注でお願いします」


軽く笑って告げると、カミラが小さく唇の端を上げる。


「かしこまりました」


さらさらとペンが走り出す音が、工房の静けさに心地よく響いた。
カミラは図面を引きながら、ふとペン先を止めた。


「……あの、こちら……こんなに透けてていいのでしょうか? 機能的に汗吸わなくて困りますよね……」


頬にじわっと熱がこもるのを感じた。
面と向かって言われると、思わず視線が泳ぎ、口の端がもごもご動く。


「よ、夜だけに使うんです……」


小声で言うと、カミラが「ああ……」と意味深に頷き、またペンを走らせる。


(……ちょっと待って。というか、カミラに言うのも恥ずかしいのに、これ侯爵邸に届いたら……まずくない!?いや、誰も中身は見ないだろうけど……でも、でも……!)


頭をよぎったのは、実家にいた頃、えっちな漫画が郵送されてきた時のこと。
とんでもないくらい心臓がバクバクして、受け取るまでの数時間で寿命が縮んだあの感覚が、一瞬で蘇ってきた。

(……コンビニ受け取り的なこと、この時代ないの!?……ないわよね!)


私はぽつりと呟いた。


「……出来上がったら毎回私が受け取りに来ます……これが侯爵邸に届いて、もし見られたら恥ずかしくて死ぬ」

「……お嬢様、”収蔵庫”等はお持ちではないですか?そちらにお届けも可能ですけど」


頭を抱える私に、カミラは苦笑いしつつ、提案をしてくれた。


「収蔵庫?」

「貴族の方々が大切な品を保管する小規模な倉庫です。邸宅とは別に設ける方もいらっしゃいますよ」

 カミラの一言に、私は目を見開いた。


「……それいいわ!」


(まさにコンビニ受け取り!)


手を叩いて、高速で頭を回転させる。
でも突然収蔵庫欲しいなんて言って、そのことがお父様の耳に入ったら困る。


(しかも、一令嬢が自宅以外の場所にそれを作ったら注目されちゃうかもしれないし……)


顎に手を当て、再度考えを巡らせる。


「そうよ!カモフラージュしたらいいわ!……完全会員制の下着屋さんにしておくのよ!その実は私だけのコレクションみたいな!」


(個人サロン作るって言っておけば、お父様にも報告しやすいし。表面上は“ちゃんと仕事してる風”で、実際は完全に私の趣味空間……)


頭の中で完璧な構図ができあがり、思わず口元が緩む。

「お父様には、お小遣いでちょっとサロン作りたいなって思ってて、って言えばいいわ」


カミラが呆れ半分で笑う中、どんどん自分の中で計画が膨らんでいく。


「マルシュリーヌでは下着販売出来ないって言ってたでしょ?だったら工房で作ったものを私のサロンに卸すのよ。そうしたらマルシュリーヌにもきちんとお金は入るし……お互い得しかない」

「……お嬢様、そういう発想だけは人一倍お早いですね」


そしてカミラは少し心配そうに眉を寄せた。


「……オーナーの許可を得ないといけませんね」

「それは心配ないわ」


私は腰に手を当て、得意げに告げる。


「ドレスの特許あげたもの。お父様が契約してくれてたみたいで……あとで契約書読み込んだら、完全に特許をあげる代わりに私に有利な条件で契約を結んでくれてたの。これで許可しないはずがないわ」


カミラが目を瞬かせ、ゆっくりと息を吐く。


「……さすが侯爵様ですね。……にしても、お嬢様は経営学にも精通しているんですか?生地の性質なども資料を読んだだけですぐ覚えられて……多才ですね」

「いやいや、ただ本を読んでただけよ。最近いろいろ読んでるんだけど、結構読み出したら面白くって」


なにげなくそう返すと、カミラは一瞬固まったあとに静かに数度頷いた。

「……これからも、お嬢様についていきます」

「……? ありがとう。じゃあ収蔵庫もといサロンの手配は高速で進めるからよろしくね」


窓の外では昼の光が強くなり、工房の中にきらきらとした埃が舞っていた。
わけわからないままに後継者教育の一環として本を沢山読んできた。
それが、まさかこんな形で役に立つことになるなんて。

(……私とティオ様の熱い夜に役立つこと、間違いなしよ……!!出来上がるのが待ち遠しい!)


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