スポンサーリンク

53話 推し様がわが家にお泊りに来ました!

TL小説に転生した腐女子は推し様を攻めたい!ティオ ルシフェリア 推し様がわが家にお泊りに来ました! TL小説に転生した腐女子は推し様を攻めたい!
※本作品は過去作をもとに、一部表現を調整した全年齢版です。物語の世界観はそのままに、より読みやすく再構成しています。

夕方になり、ティオ様が侯爵家にやってきた──

朝からずっとそわそわしていた私は、いよいよという瞬間に胸が弾んで……正直、浮足立っていた。

──のに。

お父様とお母様は満面の笑みでティオ様を迎え入れ、食堂へ案内するや否や、まるで旧友と再会したかのような賑やかさを見せた。


(……あれ?なんで私より家族の方が盛り上がってるの?)


それに応じるティオ様も、口元に穏やかな笑みを浮かべながら、いつもより柔らかい声で会話を返している。


「ティオも早くここに住んで欲しいんだけどなぁ」

「本当ねぇ、いつでも待ってるわ」


ご機嫌な両親の一言に、ティオ様は少し笑って、


「また泊まりに来ますね」


と敬語で返答していた。


(仲が良いのは知ってたけど……両親と話しているティオ様を見るのは初めてかも。しかも、敬語とか使えるんだ……!?)


妙な衝撃と、ちょっとくすぐったい気持ちが胸の奥に広がった。






本当は、ティオ様を独り占めして、私の部屋でいちゃいちゃしようと思っていた。
なのに今、応接室ではお父様とティオ様がチェスをしている。


チェスのルールはよく知らないけれど……お父様が頭を抱えているのを見る限り、どうやらお父様が押されているらしい。

お母様はといえば、ティオ様の好きなお菓子を準備して、盤面を眺めながら嬉しそうに笑っている。


「……ちょっと!なんでお父様とお母様がティオ様を独占してるんですかっ!」


思わず立ち上がって怒りながら言うと、


「ルシはいつでも会えるんだからいいだろ」


お父様に軽く一蹴されてしまった。


「まぁ、仕方ないですね……じゃあ楽しんでください。私は寝る支度してきますので」


息を吐いて、そう告げるとくるりと踵を返す。


(ふん、夜は私の部屋で独り占めしてやるんだから)






入浴を済ませてテラスに出ると、夜風がひんやりと頬を撫でた。

夜の匂いとその涼しさを感じていると、背後からそっと腕が回される。
聞きなれた声が耳元で囁いた。


「……風邪引かないでね」

「ティオ様……?」

「あ、ちゃんとセシルから通してもらったよ」


振り返るといつもの優しい笑顔があって、安心して身を預ける。


「というか、私の家族……ティオ様のこと好きすぎませんか?」


回された腕をつんつん突きながら、半分文句のように言う。


「君の家族と仲良くできて嬉しいよ」


そう言って、後ろから耳元にちゅっと音を立ててキスされた。
胸の奥がきゅんと跳ね上がる。


(……このまま、私の部屋で……)


と良からぬ妄想を始めたところで──


「じゃあ、また明日ね。僕は客室を用意してもらってるから。おやすみ」

「…………え?」


あっさりと腕を解かれ、振り返る間もなく部屋を後にする背中。
残された私は、夜風の中でひとり呆然と立ち尽くした。


「そんな……」


こんなに甘い雰囲気になったのに、あっさり「また明日」なんて。


(……忍び込んでやる)


私はいつものごとく心の中で決意するとすぐさまセシルを呼んだ。


「セシル! ティオ様の客室、どこ!?」


小声で問い詰め、位置を聞き出すと、髪を整えてナイトドレス姿で意気揚々と部屋を後にした。





聞きだした客室の前に立ち、小さく扉をノックすると、片手に本を持ったティオ様が顔を出した。


「ルシ?……どうしたの?」


返事もそこそこに、私はぐいぐいと彼を部屋の中へ押し込み、扉を閉めた。


「……ティオ様が足りないんです」


そのまま勢いで奥へと進み、ベッドに押し倒すと、バサッと音を立てて本が滑り落ちた。


「……こういうとき、ルシってなんでこんなに力強いの?」


笑いながら、ティオ様は覆いかぶさる私をぎゅっと抱き締めた。


「ルシ、もしかしていやらしいこと考えてる?」

「……考えてません」


何もかもお見通しのような目で、ジッと見つめられる。


「今日はちゃんと自分の部屋で寝るんだよ?」

「……や」

「君のご家族も使用人もいるでしょ?」


片方の口角を少しだけあげて笑われて、言葉が詰まる。


「……じゃあ、キスしたら送っていくから」

「嫌……我慢するから、一緒に寝るだけ……お願い、ティオ様」


ティオは一度ため息をついたものの、結局ルシの頭をぽんと撫でる。


「……ルシからお願いされたら、僕が断れないのわかってて言ってるでしょ」


そうしてそのままベッドに横たわると、当然のように彼の胸元に身体を寄せた。
柔らかな金の髪がティオの胸に触れて、甘い香りがふわりと広がる。

ティオは少し困った表情を浮かべたものの、結局その小さなわがままを受け入れて、ルシフェリアを腕の中にすっぽりと収めた。


「ねぇ、ティオ様。……こういう時でも本読んで、勉強してるんですね」

「うん。手持無沙汰な時はいつも読んでるかも」

そんな何気ない会話をしながら、ルシはぽつりと打ち明けた。

「ティオ様、いつも頑張ってるのに……私、何も自分のやるべきことやってなかったから。ちょっと頑張ろうと思って、後継者教育をちょこーっとだけやってみてるんです」


彼は一瞬驚いたあと、ふっと優しく目を細めて、どこか誇らしそうに微笑んだ。


「……ルシ、すごいね。僕は支えることしか出来ないけど……」

「違うんです。ティオ様がいるから……ティオ様と一緒に、これから住む領地になるから、守らなきゃって思って。私は生まれも違う国だし、私が何を出来るかもわからないけど……」

そこまで言うと、ティオ様は笑顔で「ありがとう」と小さく告げてくれた。
優しく頬を撫でながら、穏やかな声で言う。

「ルシってすごく記憶力いいし、目の付け所が独特だからさ。きっと領地を守る上で役に立つよ。でも、疲れた時はいつでも僕に甘えて欲しい」

胸がいっぱいになって、私はぎゅっと首に腕を回して抱きついた。
抱きついたまま、そっと顔を上げて、ちゅっと短くキスを落とす。

「……ほんとに何もしないんですか?」

「約束したでしょ」


穏やかな声で制されても、じっと見つめ返してしまう。


「……じゃあ、交換条件です」


にやりと笑いながら、彼の胸に指をすっと滑らせる。


「……次、ティオ様の別邸に行ったとき、いっぱいイチャイチャしましょ?……私の足腰が立たなくなるまでしてくれたら、許します」


その一言に、ティオ様は一瞬固まり――みるみる耳まで赤く染まっていった。


「……ルシ……」


その反応に満足しながら、ぬくもりに包まれたまま私は目を閉じた。





数日後――。
癒術理院の一日の業務を終えたティオは、研究室に散らばった書類を慌てて片づけていた。


「……今日は早く帰らないと」


いつもなら夜遅くまで研究を続けるのに、この日は時計を何度も確認している。
白衣を脱ぐ手も、どこかそわそわと落ち着かない。


あの日、笑いながらあんなことを言ったルシは、すぐに目を閉じて寝息を立てた。
けれど、こっちは一睡もできなかった。


急いで帰宅すると、部屋の空気を入れ替えて、ルシが好きな香りの茶葉を選んだ。


(……いや、落ち着け。これはただの歓迎準備だ)






ルシフェリアは護衛と別れて、別邸の扉を開けた。
ぱたぱたとすぐにティオが駆け寄って来て、無言で抱きしめられる。
息を付く間もなく、唇が重なった。


「……ティオ様?」


驚いて名前を呼んでも、返事の代わりに唇がもう一度重なる。

いつもは、手を繋いで眠ろうとか、今日はぎゅっとする日だとか──そんな優しいスキンシップを好む人なのに。

何か、今日は……熱い。


(もしかして……『足腰立たなくなるまで』って言ったの、効いちゃった……!?)

背中を撫でる手が、服越しでも熱を帯びている。
見上げれば、息がかかる距離で、彼が静かに笑っていた。






玄関での熱い口づけから、気づけばあっという間にベッドに降ろされていた。
ゆっくりと覆いかぶさってくるティオ。
その状況でも律儀に、低い声で問われた。

「ルシ……いい?」


胸がきゅんと鳴る。

「……本当に、足腰立たなくしてくれるんですか?」

「……後悔しない?」

頷く代わりに、私はそっと首に腕を絡め、自分から唇を重ねた。
その瞬間、ティオ様の腕に力がこもる。


☜前の話へ   次の話へ☞