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48話 お茶会で芽生えた友情。初めて“友達”と呼べた日

TL小説に転生した腐女子は推し様を攻めたい! ティオ ルシフェリア お茶会で芽生えた友情。初めて“友達”と呼べた日 TL小説に転生した腐女子は推し様を攻めたい!
※本作品は過去作をもとに、一部表現を調整した全年齢版です。物語の世界観はそのままに、より読みやすく再構成しています。


数日後、お茶会当日――。
ミルフォード邸から少し離れた高台に建つ、エルディア公爵家の屋敷の前で馬車が止まった。
窓越しに見える白い外壁を前に、私はそっと深呼吸する。


(……まさか、私が“お茶会”に行く日が来るなんて)


この世界に来てからというもの、貴族らしい社交の場にはほとんど縁がなかった。
侯爵令嬢として挨拶や顔見せはこなしてきたけれど、こうして『遊びに来て』と私的に誘われたのは初めてだ。


(しかも相手は、公爵令嬢……!)


思い浮かぶのは、赤い髪を揺らしながら毅然と立つ少女――アデライド・エルディア。
誰が見ても美しいのに、少し不器用でツンとした態度が印象的だった。


(ああいうタイプ、案外気が合うんだよね……たぶん)


胸の奥で小さく笑い、私は馬車から降りた。






通されたのは、柔らかな光が満ちる明るいサロン。
窓辺には花々が飾られ、テーブルには可愛いケーキと紅茶の香りが漂っている。


「ごきげんよう、ミルフォード嬢。……ずいぶんと遅かったですわね」


ティーカップを手にした赤髪の少女――アデライド嬢が、やや不満げに言った。
そのアンバーの瞳がぱちりとこちらを捉える。


「……こんにちは。今日は、お招きいただきありがとうございます」

「べ、別に……あなたが来たいなら来ればって言っただけですから」


言葉とは裏腹に、テーブルの上には山ほどのお菓子。
思わず心の中で笑ってしまう。


(もう、ツンデレ全開じゃないの……)


促されて席に着くと、アデライドはもじもじと指を組みながら、小さく声を落とした。


「……せ、先日は失礼したわ。その……いろいろと……」


謝っているようで、素直になりきれない声音に、笑みがこみ上げる。
私は彼女のドレスに目を留めた。


「……あれ、そのドレス、マルシュリーヌのですか? コルセットなしのタイプ」


びくり、とアデライドの肩が揺れる。


「ち、ちがうんです! べ、別にあなたが着てたのを見て、真似したわけじゃなくて!」


慌てて真っ赤になるその姿に、とうとう笑いを堪えきれなかった。


「ふふ……」

「違う、そういうことが言いたいんじゃなくてっ……ご、ごめんなさいっ!」


勢いよく立ち上がったアデライドが、深々と頭を下げる。


「本当は先日も……ミルフォード嬢と仲良くなりたくて話しかけたんです。でもいつも意地張っちゃって、嫌なことばかり言っちゃって……。本当はあのドレスもすごく素敵だなって思ってましたの。ごめんなさい」


真っ直ぐに言葉を紡ぐ姿に、胸の奥がきゅうっと温かくなる。
気づけばぽつりと口をついて出ていた。


「ツンデレの威力って、すごいなぁ……」

「……つん……でれ……?」

「いえ、アデライド嬢が本心で言ってないこと、すぐわかりましたから。気にしてませんよ。それに……そのドレスを着てくれて、嬉しいです」

紅茶の香りに包まれながら、二人の距離がゆるやかに縮まっていく。


「アデライド嬢。私のことも、名前で呼んでください」


アデライドは一瞬目を見開き、すぐに視線を逸らした。


「……どうしてかしら。あなたと話していると、つい口調が乱れてしまいますわ。……それにあなた、もう私のことを名前で呼んでますのね、ルシフェリア嬢」


不満そうな口ぶりとは裏腹に、声の端はわずかに緩んでいた。


「嫌じゃないくせに」

「~~っ、べ、別に嫌ではないですけどっ!」


顔を赤くして横を向く彼女が可愛くて、笑みがこぼれる。


「私、両親から“公爵令嬢として見くびられないように”って厳しく育てられたの。だから強がってばかりで、同年代の友達もいなくて……。だからあなたが普通に話してくれて、嬉しかったの」


ふと漏らしたその言葉に、私は目を瞬かせる。


(そっか……うちは自由すぎるくらいだったけど、彼女は正反対なんだ)


そんなことを思いながら、静かにカップを置いた。


「ふうん……でも、こんなに綺麗で中身も可愛いのに。みんな見る目ないんですね」

「~~~~っっっ!?!?」


一瞬で顔を真っ赤にして叫ぶアデライド。


「そ、そういうことを軽々しく言うものじゃありませんっ!!」

「ふふ、ごめんなさい。でも本当はすごく素直なんだなと思って」

「~~~っ!!!もう知らないっ!!」


立ち上がりかけたアデライドの手を、私はそっと取った。


「……アデライド嬢。私もずっと屋敷にこもってたから、友達になれて嬉しい」

「………………ばか」


その小さな呟きに、頬が緩む。
照れたように顔をそらす彼女に、ふと思いついて尋ねた。


「そういえば、アデライド嬢には婚約者はいないんですか?」

「えっ、わたくし?」


アデライドは少し間をおいて、カップを置きながら姿勢を正す。


「高位貴族の未婚男性は今ほとんどいませんから。……陛下を除けば、ですけど」

「……?」


アデライドは少し声を落とし、ひそやかに囁いた。


「大きな声では言えませんけれど……陛下は“男色家”という噂がありまして」

「ええええ!?!?」

「!? ルシフェリア嬢、声が大きいですわっ!」


思わぬ爆弾発言に、頭がフル回転する。


(え、ちょっと待って……あのレオン様似の美形が!? いとこ同士だし……ティオ様と三角関係とか……ありでは!?)


妄想スイッチが全開になり、思わず頬が緩んだ。

(やば、不敬かも。でも……ティオ様を取り合うなんて、尊すぎる!!)


そんな様子にアデライドが心配そうに眉を寄せる。


「大丈夫……?」

「あ、大丈夫。ちょっと妄想が暴走しただけで……」

「妄想……? まあいいですわ。私には婚約者はいませんけど、立場的に政略結婚になると思います。でも……恋、してみたいなって」


もじもじと紅茶をかき混ぜながら、彼女はそっとこちらを見る。


「素敵な方に出会えるといいですね。アデライド嬢はとても魅力的ですから」

「……ふん。……あなたたちがダンスしてるのを見て、ちょっといいなと思っただけですわ」


照れくさそうに顔をそむける彼女を見て、私は心の中で小さく笑った。
ツンデレって、本当に可愛い。

少しの沈黙のあと、アデライドが勇気を振り絞るように口を開いた。


「……また、お茶してくれますか? それから……街に出かけて、一緒にドレスを選んだりも、してみたいの」


その言葉に、私はぱっと顔を明るくした。


「もちろんです。誘ってくれてありがとうございます」


柔らかく笑みを返したその瞬間、胸の奥にあたたかいものが灯る。

――この世界で初めてできた、同年代の“女の子の友達”。
ツンと澄ました顔の奥に隠れた素直な笑顔が、たまらなく愛おしい。


(……また会いたいな)


お茶会は、午後の陽射しに包まれながら、静かに幕を閉じた。


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