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4.5話 黒髪の聖女との出会い。邸宅の前で交わる静かなまなざし

××すぎるんです、公爵様・・・っ!セレナ レオン 黒髪の聖女との出会い。邸宅の前で交わる静かなまなざし ××すぎるんです、公爵様・・・っ!
※本作品は過去作をもとに、一部表現を調整した全年齢版です。物語の世界観はそのままに、より読みやすく再構成しています。


~セレナ公爵邸到着時 レオン視点~

馬車の到着を聞き、邸の正門へと足を運ぶ。
けれどすぐに見えてきたその馬車に、思わず足を止めた。

――あれは、公爵家が用意したものではない。

(……まさか、あれで伯爵家の令嬢を?)

胸の奥に、鈍い熱が灯る。
苛立ちを押し殺しながらも、その違和感は拭えなかった。

やがて馬車の扉が開き、細い足が一歩、石畳に降りる。

そして現れたのは――
闇夜を思わせる艶やかな黒髪。
風にふわりと舞うその髪は、まるで絹糸のようにやわらかく光を返す。
透けるように白い肌が陽光に浮かび、ふと目を引いた。

そして彼女が顔を上げたとき、深く澄んだ瞳と目が合った。

(……黒髪に黒い瞳。噂の通り、だな)

けれどその瞳は、ただの闇ではない。
静かな湖面のように、言葉にならない何かを湛えているようだった。
祈りにも似た――不思議な光。

少女の身なりは質素だった。荷物も少なく、供を連れていない。
腕の中に、小さな猫を抱いているだけ。

(……まさか、これほどまでに――)

いったいどんな扱いを受けてきたのか。
その境遇が、服装よりも、その立ち姿の静けさが何より物語っていた。

気づかれぬよう視線を逸らし、背後に控えるアレクへ声を落とす。

「……伯爵家には伝えておけ。馬車の件、正式に対処すると。――静かにな」


アレクが一礼するのを確認し、少女の前へ歩み出た。

「ようこそ。……私は、レオン・ノクティスです」

戸惑いを含んだ彼女のまなざしが、自分を見上げる。
その中にあったのは――怯え。そして、わずかな諦め。

(……似ている)

孤独を抱えて生きてきた者だけが持つ、静かな影。
それは、かつて鏡の中で自分が見たものと、あまりにもよく似ていた。

彼女は“聖女”として必要な存在だ。
その力が、我が家の未来を救うかもしれない――それは間違いない。

だが、それだけではなかった。

彼女の姿を見たとき、ただ“手を差し伸べたい”と感じた。
誰でもなく、この少女自身に――

聖女としてではなく、壊れてしまう前のひとりの人として。
その小さな背に、何かを背負わせすぎてしまう前に。

この彼女に、自分ができる形で、寄り添いたいと思った。

――ただ、それだけだった。

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