スポンサーリンク

38話 生誕祭ドレスに込めた、ルシフェリアの決意

TL小説に転生した腐女子は推し様を攻めたい!ティオ ルシフェリア 生誕祭ドレスに込めた、ルシフェリアの決意 TL小説に転生した腐女子は推し様を攻めたい!
※本作品は過去作をもとに、一部表現を調整した全年齢版です。物語の世界観はそのままに、より読みやすく再構成しています。


固く決意を固めたあと、私は侯爵邸に戻って自室でごろごろしていた。
ゆったりソファに身体を沈め、天井を見上げながら、セシルに声をかける。


「ねえ、セシル。私って、社交界どれくらい出てた?」


問いかけると、セシルは手の動きをぴたりと止め、わずかに眉を寄せた。


「……また記憶が曖昧なんですか……?」

「いや、ほら、色々あるでしょ!……デビュタントはしたって言ってたよね?」

「……はい。十六歳の時にデビュタントは済ませました。ですが、その後は一切社交界に顔を出されてないかと」

その声は淡々としていたが、一瞬だけ「また始まったのか」という色が見えた。
私は肘をつきながら小さく頷く。

「……え、ほんとに? 一度も?」

「はい。パーティのご案内は何度もありましたが、“お体の調子がすぐれない”という理由でずっとお断りされてました。あとは侯爵様と奥様が、“無理をさせたくない”と……」

唇に指を当てながら、ルシフェリアは静かに考え込む。

(だったら、私の事知らない人が多いはず。記憶の不整合も目立たないし、むしろチャンスかも……)

そう思って顔を上げると、セシルがわずかに肩を震わせた。

「……お嬢様、今度は何を考えているのですか……」

「生誕祭、私も出席するわ。そして、“ティオ様は私の”って、みんなにアピールする作戦を練るの!」

「えっ、お嬢様出席なさるんですか……!?」

驚きで目を丸くしたセシルの手が、再びぴたりと止まる。

「ティオ様ってば、無自覚に人を魅了しちゃうから……。ティオ様の魅力は抑えられないけど、牽制は出来るでしょ?公の場でアピールするために行こうかなって」

「…………既に婚約式も済ませてますし、半分一緒に生活されてるんですから、誰も手を出そうなどとは思わないかと」

セシルは呆れ半分、心配半分といった視線を向けてきたが、私は気にせず続ける。

「ふふふ、可愛いドレスも着て、腕を組んで、みんなの前で堂々と見せつけてやるんだから!」

「お嬢様……またドレスオーダーするおつもりですか……?」

「うん!!もちろんコルセットしなくていいやつで、でも式典でも着れるくらい可愛いやつを!」

ベッドにごろんと転がり、次はどんなドレスにしようかと胸を躍らせる。

「……確かに、お嬢様がオーダーしてくれたこの制服、本当に楽なんです。動きやすいし、着心地も良くて。一度これを味わったら、もう普通のドレスには戻れないのも納得です」

ルシフェリアはきょとんと目を瞬かせ、それからふっと笑った。

「でしょ?……誘惑の為だけじゃなくて、快適さも大事だからね。セシルも快適に過ごせてるなら――これからも私のわがまま、いっぱい聞いてね?」

にこっと笑うと、セシルは一瞬だけ何とも言えない表情をしたが、小さく頷いた。

「……はい、お嬢様」





決めたら即行動!と、私はさっそく侯爵家の馬車に乗り込み、お馴染みのドレスサロンへと向かった。
奥まった工房の扉を、ルシフェリアは勢いよく押し開ける。

「こんにちは、カミラっ!」

針箱を片づけていたカミラは、生地見本を閉じると、静かに微笑んだ。

「……ミルフォード嬢。今日もご注文を?」

「はいっ!来月の皇帝陛下のご生誕祭に出席するので、式典用の新作ドレスをお願いしたいんです!」

カミラの瞳が、少し驚いたように開かれる。

「それは……また、大舞台ですね。どのようなイメージを?」

ルシフェリアはぐっと身を乗り出し、勢いよく言う。

「瞳の色に合うような色味で、可憐な感じを出しつつ、華やかにしたいの!」

「……また、あのコルセットなしの仕様で?」

「はいっ!!いつもの快適仕様でお願いしますっ!動きやすくて、見た目も可愛いやつで!」

“脱ぎやすさ重視”の依頼から始まった奇抜な発想も、今ではカミラにとって日常になっていた。
出来上がったドレスはいつも“天才的”に可愛く、本人にぴたりと似合う。
職人としても、毎回心をくすぐられる瞬間だ。

「……承知しました。なるべく動きを制限されないような図面、考えてみます」

「さすがカミラ~~~!!式典とか堅苦しい場面だからこそ、コルセット付けないのが活きるでしょ?」

ぱぁっと笑うルシフェリアの顔に、カミラもつられて微笑む。
そして真剣な声色で尋ねる。

「……長時間の式典等では倒れる令嬢もおられますから、コルセットなしには賛成ですが――コルセットをしていないのは、一目瞭然ですよ? 本当に大丈夫ですか」

「苦しいのは嫌だし、私、十分ウエスト綺麗だから問題ありません」

胸を張って答えると、カミラは小さく微笑み、サンプル生地を並べ始めた。


「……あっ!あともう一つ、お願いがあって!このドレスと同じ生地で――ネクタイとチーフって、作れますか?」

「もちろん!……お色味合わせるなんて素敵ですね。気合い入れて作成させて頂きますね」


手には新作ドレスのラフデザインと、ティオ様用のネクタイとチーフの見積もり。
ご機嫌な足取りで工房を後にする。

「……ふふふ、これで当日は絶対にティオ様と並んで目立っちゃう!式典終わった後もイチャイチャ出来るし……ああ、楽しみっ!」

石畳を踏みしめる足取りまで、自然と軽やかになる。
――すべての計画が、滞りなく進んでいる。

(……こうやって準備するだけでもワクワクしちゃう!)

今のルシフェリアには、それが心から楽しみで――誰よりも、大切な人と並び立つ日のための、特別な時間に思えていた。


☜前の話へ   次の話へ☞