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29話 ついに迎える婚約式

TL小説に転生した腐女子は推し様を攻めたい!ティオ ルシフェリア ついに迎える婚約式 TL小説に転生した腐女子は推し様を攻めたい!
※本作品は過去作をもとに、一部表現を調整した全年齢版です。物語の世界観はそのままに、より読みやすく再構成しています。

夜のミルフォード邸。
静まり返った食卓の上には、明日の婚約式を前にした空気がゆっくりと流れていた。
ルシフェリアは、両親と向かい合って座っている。

「……明日で、いよいよなのね。ルシフェリア」

お母様が微笑むその瞳は、かすかに光を帯びていた。
隣のお父様も、ゆっくり頷きながら口を開く。

「……性格が変わったとか、前より激しくなったとか、そんなことはどうでもいい。ルシの優しさは昔から変わらない。どんな姿でも、それが一番大切なんだ」

胸の奥に、じわりと温かさが広がる。
私の手をお母様がそっと包み込んだ。

「あなたがどこに行こうと、どんな未来を選んでも――笑っていてくれればそれでいいの」

深く響く声は、見透かすように優しくて、心の奥に染み渡る。
胸の奥に、かすかな震えのような衝動が広がった。

(……二人がどれほどルシフェリアを想ってくれているか、痛いほどわかる)

その愛情は“ルシフェリア”だけじゃなく、“私”にも届いている気がした。






夜が更け、ルシフェリアはひとり自室でゆっくりしていた。
ベッドの下から、小さな箱を取り出した。

(……ちゃんと気持ちを伝えなきゃ)

深く息を吸い、ペンをとる。

ーーー

あなたの両親はね、何をしていても「笑っていればいい」って言ってたよ。

美月、そちらでも笑って過ごしてね。

私も、それを聞いて笑って生きようって決めたよ。
私があなたの両親を、大切にします。

ーーー

「……読んでくれるかな」

書き終えた手紙を箱に戻し、そっと蓋を閉じる。
明日のわくわくを胸に静かに目を閉じた。







カーテンの隙間から朝の光が差し込むころ、ルシフェリアはゆっくり目を開いた。

この間まで胸の奥にあった漠然とした不安――“私”として愛されているのか、という焦りは、もうどこにもない。

(きっとどんな私でも、ティオ様は愛してくれる。両親もセシルも、”私”と”美月”の両方を大事に想ってくれている)

そんな確信めいた思いに包まれて、ついに――婚約式の日がやってきた。

(……いよいよ、今日だ)

胸が高鳴る朝。
支度を始める前に、昨日手紙を入れた“箱”のことを思い出す。

そっと箱を開けると、見慣れない白い紙が一枚添えられていた。

(……わ、返事きてる……!)

開いてみれば、そこには自由奔放な文字が踊っている。

ーーー

ねえ、ルシフェリア。
私、彼氏とついに……♡

あなた、もしかしてまだティオ様と進んでなかったりして?w

(そういえばさ、スマホの“聖典”だけど、入れ替わった時に最初に見たよ。ティオ様妄想されすぎてて笑った)

美月


ーーー

「……美月~~~~~~~~~!!!!!!!」

怒りとも照れともつかない声をあげ、顔を真っ赤にするルシフェリア。

「今日よ、今日! 今日やっと進むんだから!!」

指先に力を込めてメモを丸めかけ――
ふと、もう一枚あることに気づいた。

慎重に広げると、昨日の言葉に応えるような美月からのメッセージが綴られていた。

ーーー

お父様とお母様からのメッセージ、ありがとう。
そちらはよろしくお願いします。

私も、あなたの両親を大切にします。

ーーー

静かに目を伏せ、喉の奥がじんと熱くなる。

「……ありがとう、美月」

そっと呟き、手紙を別の箱にしまうと、ゆっくり立ち上がった。

これから始まる特別な一日。
大切な人のもとへ向かう準備を始めるために――。






侯爵家の親族、伯爵家の関係者たちが集まり、想像以上に豪華で華やかな式典が幕を開けた。

祝詞が響き、誓いの言葉が交わされ、ティオ様が私の指にそっと指輪をはめてくれた時も――


私の胸の奥は、”その後”のことでいっぱいだった。

ーーそして、あんなに待ち遠しかった式は驚くほどあっけなく終わった。
薬指の指輪だけが、今も静かに光を放っている。

控え室に戻った私は、ようやく重いドレスを脱ぎ捨てる。
今日のために特別に仕立ててもらった、簡単に着替えられるドレスに袖を通し、鏡の前でそっと整えた。

鏡に映る自分は、幸福感に満ちていた。


(……だって、今夜はついに……)







全てが終わり、ティオ様と二人だけの馬車に乗り込む。

心臓の鼓動と馬車の揺れが重なり、胸がそわそわと落ち着かない。
隣に座り、つないだ手を見下ろしてぽつりと呟く。



「……ティオ様の正装、すごく素敵でした」


ティオ様は少し照れたように笑い、まっすぐに私を見つめる。


「ありがとう。……ルシも、すごく綺麗だよ」


握られた手のひらから熱が伝わってくる。
今夜、私は――この人の“婚約者”として、初めての夜を迎える。

やがて馬車が止まり、ティオがドアを開けてくれる。
差し出された手を取ろうとした瞬間。


「わ……っ」


ふわりと、身体ごと抱き上げられていた。


「……行こう、ルシ。早く二人きりになりたい……」


くすぐったい声に頬が熱くなるのを感じながら、そのまま腕の中で運ばれていく。
別宅の扉が静かに閉まる。

ーーガチャリ

その音と同時に、ティオ様がゆっくり顔を寄せてきた。

「……ルシフェリア」

名前を呼ばれた瞬間、唇が重なる。
柔らかく、深く、何度も、何度も。
まるでいままでのすべてをほどくように。

顔を離すと、ティオは私を抱き上げたまま、静かに歩き出す。

寝室へ迷いなく足を進め、ベッドに優しく下ろす。
ふと彼が私を見下ろした。


「……さっそく、なんですね?」


小さく問いかける声に、ティオ様は一瞬だけ動きを止め――
それから少し目を伏せ、低く呟いた。


「……だめ?」


その声音に、どれほど長く我慢していたかがにじんでいて、胸の奥がぎゅっと熱くなった。


「だめじゃないです」


私はそっと微笑み、彼の首に腕を回した。
もう、全部を預けると決めたから。


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