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22話 婚約式まで待てない!侯爵令嬢が忍び込んだ夜の研究室で…

TL小説に転生した腐女子は推し様を攻めたい!ティオ ルシフェリア 婚約式まで待てない!侯爵令嬢が忍び込んだ夜の研究室で… TL小説に転生した腐女子は推し様を攻めたい!
※本作品は過去作をもとに、一部表現を調整した全年齢版です。物語の世界観はそのままに、より読みやすく再構成しています。


熱心に未来を語るお父様の声を、どこか苦笑いしながら聞き流し、視察をどうにか乗り切ったあと――私は自室で深々と息をついていた。

(疲れた……ティオ様……今、何してるんだろ)

気づけば考えるのはそればかり。
今日は一度も会えなかったことが、妙に胸の奥をそわそわさせる。

(……なんでこんなに落ち着かないんだろ。あと二週間で何でも出来るって言うのに。……でも、今日だけはどうしても顔が見たい)

思考を振り払おうとしたけれど、浮かぶのは彼の笑顔ばかり。
胸の奥がちくんと疼いて、焦りとも不安ともつかない感情がじわじわと広がっていく。

(……早くティオ様を、私だけのものにしたい……誰にも渡したくない)

新しいドレスの仕上がりにはまだ時間がかかる。
けれど待つなんてできない。
ふとベッドの端に視線を落とし、ぱっとひらめいた。

「あ……寝巻きならすぐ脱がせられるんじゃない!?」

思いついた途端、体が勝手に動いていた。
クローゼットの奥から、昔のルシフェリアが使っていたであろうシンプルなナイトドレスを引っ張り出し、手のひらでしげしげと眺める。

(露出は少ないしラインも出ない……でもこれならすぐ……。時間も遅いけど、まだ彼は研究室にいるはず。……よし、行こう。少しだけなら、きっと大丈夫)

会いたい気持ちと、ちょっとした期待が胸を熱くしていく。
ただ、その前に――。

「……セシル!」

呼び鈴を鳴らすと、慌てた顔の侍女が現れた。

「お呼びですか……お嬢様。なんだか嫌な予感がしますけど」

「セシル、一生のお願いがあるの」

両手を取って真剣な目で見つめると、セシルはため息混じりに肩を落とした。

「……今度は何を?」

ルシはベッドのシーツをめくりながら、真剣な表情で告げる。

「今夜、ここで私の代わりに寝てほしいの」

「えっ!?」

セシルの目が丸くなる。

「お願い、セシルにしか頼めないの!朝方にはちゃんと戻るから!私の未来がかかってるのよ!」

「……お嬢様、まさか研究室に? 侯爵様ならたぶん笑って許すでしょうけど……って、お嬢様!!?」


言い終わる前に、ルシフェリアは白い上着を羽織ってさっさと部屋を飛び出していった。
取り残されたセシルは盛大にため息をつきながらベッドに横たわる。

(……お嬢様、ほんとに無事で帰ってきてくださいよ)







夜の癒術理院。
誰にも見つからないように、私だけが知っている裏道を通り抜け、そっと研究室の前へ。

(……よし、今日こそ絶対誘惑してやる!)

上着の裾を握りしめ、勢いよく扉を開け放った。


「ティオ様っ!」

「うわっ!? ルシ!? な、何かあったの!?」


驚いた彼が立ち上がる前に、私は駆け寄って彼の胸に飛び込む。


「ふふ、会いたくなっちゃったんです」

「ルシ……」

くすぐったそうに笑う彼の眉が少し寄った。


「こんな時間に一人で……危ないでしょ?」


低めの声。
心配して怒っているのがわかる。

「大丈夫、護衛も一緒だったし、こっそり来ました。だってティオ様が外聞気にするから……私も気を使ったんです」

「まったく君は……!」

苦笑しながら頭に手が伸びる。
その大きな手が、妙にあたたかかった。


「会いに来てくれて嬉しいけどね。でも次は僕が行くから。近いんだから、誰かに伝えればすぐだよ?」


撫でる手の優しさに胸がじんとした。
だから、思わず口を開く。


「ねえ、ティオ様……」

「ん?」

「今日は……ここに泊まってもいいですか?」

「は?」


呆然とするティオに、私は自慢げに胸を張る。


「今夜はセシルを身代わりにしたので!問題ありません!」

「いや、それ問題だらけでしょ!? 君をこんな狭い部屋に寝かせるわけにはいかないし」


追い返そうとする気配に、思わず目を伏せる。

「……今日、全然会えなかったから。寂しかったんです」

その一言に彼の表情が揺らぐ。

「……ルシの気持ちは嬉しいよ。でも……何もしてなくても一緒に泊まるのはまずいってわかるよね?」

「そうかもしれないけど……だめ?」

わざとしゅんとした声を出すと、ティオは息をついて頭を撫でた。

「もう、わかったよ……大人しく寝るんだよ? ご両親には僕から言っておく」

「やった!」

抱きつく私の背中に、彼は苦笑しながら腕を回した。







仮眠室。
扉が開いた瞬間、湯上がりの彼の気配がふわりと満ちる。


(……来た!)


まだ濡れた髪から滴る水が首筋を伝い、私の視線が勝手に吸い寄せられる。


「この研究室、すごいですよね。個室に仮眠室に浴室まで……」


ベッドの端で呟くと、彼はタオルで髪を拭きながら微笑んだ。


「寝泊まり多いからね。……って、ルシ、まだ上着着てるの?」


一瞬だけ唇を噛んでから視線を伏せる。


「……ティオ様に、脱がせて欲しかったから」

「は?」


彼が固まる。
私はそっと一歩前に出て、お願いするように見上げた。

「……いいですか?」

差し出された手が上着に触れ、音を立てて床に落ちる。
現れたのは薄手の寝巻――。

「……っ!」

一気に朱に染まる彼の頬。

「ちょ、ちょっとルシ!? ルシ……こんな格好見せたら、僕が変なことしたくなるかもしれないでしょ……」

「えっ、それは嬉しい……!」

「悪いこと企んでるなら、今からでも送り返すからね」

焦ったように肩を押され、私は全力で首を振った。

「しませんっ! 絶対いい子にします!」

「……本当に? キスも軽くだけ、だよ?」

彼の視線に、ぎゅっと唇を結んでしぶしぶ頷いた。

「……約束します」

長く息を吐きながら彼が言う。

「……全く、どうして君は僕の理性を試すのかな」

手がそっと頭に置かれる。

(……今夜こそって思ったのに……結局また空振り……でも追い出されるのは嫌だから、今日は大人しくしておこう……)

誘惑のつもりが、不発に終わった夜だった。


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