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19話 あなたと触れた夜、幸せのあとに訪れた気づき

××すぎるんです、公爵様・・・っ!レオンセレナ あなたと触れた夜、幸せのあとに訪れた気づき ××すぎるんです、公爵様・・・っ!
※本作品は過去作をもとに、一部表現を調整した全年齢版です。物語の世界観はそのままに、より読みやすく再構成しています。



ぴたりと寄り添っていた身体を、名残惜しげにほんのわずか離すと、レオンはセレナをやさしく抱き寄せた。

「……セレナ、大丈夫か?」

その穏やかな声に、セレナはふわりと微笑む。

「うん……とても……幸せ……」

肌に残るぬくもりを包みこむように、レオンの指がセレナの髪をゆっくり撫でた。
その手のひらのあたたかさに、心の奥まで優しさがしみ込んでいく。

互いの体温を感じながらそっと抱き合い、二人はしばし言葉を交わすことなく、静かに息を整えていた。

しんとした室内に、重なる呼吸音と鼓動だけが微かに響く。
その静けさすら、愛おしい。

「……ねえ、レオン」

セレナがそっと顔を上げると、レオンの瞳がやさしく揺れていた。

「ん?」

「私、本当に……レオンに会えて、よかった」

胸元に頬を寄せて囁いたその声には、微かな震えと深い安らぎが混じっていた。
レオンはそっとセレナの頬を両手で包み、まっすぐにその目を見つめ返す。

その言葉に、セレナの瞳が潤む。

「君の笑った顔が見たくて、君の声をずっと聞いていたくて……。心から、君を大切に想ってる」

「……レオン」

セレナはそっと彼の胸に手を添えた。
その鼓動の力強さが、自分のそれと重なっているように感じられる。

「さっきね……すごくあたたかくなって……ふわって、満たされたの」

「俺も……同じ気持ちだったよ」

「ほんとに?」

「うん。君とこうして過ごせて、初めて……“生きたい”って思った。義務でも責任でもなくて」

セレナの目に、ぽろりと涙が浮かぶ。

「ありがとう……レオン……わたし、すごく幸せ」

「こちらこそ。何があっても、セレナを守る。……ずっと一緒にいたい」

指先が重なり、やさしく唇が触れ合う。
先ほどとは異なる、やわらかく甘やかな、深い想いの詰まった口づけ。
キスがほどけても、指先は絡んだまま。

「……そういえば、セレナも敬語をやめてくれたんだね」

「ふふっ。なんとなく……自然に。レオンも最初、“私”って言ってたのに、気づけば“俺”って呼んでるよね」

夜明け前の静寂のなか、他愛のないやり取りを交わしながら、再びぴたりと寄り添った。

――夢のようなひとときが、穏やかに流れていく。

レオンの胸に抱かれながら、セレナはつい先ほどの出来事を静かに思い返していた。
部屋を照らすのは、窓の外から差し込むやわらかな月の光と、互いの呼吸だけ。

(……あたたかい)

触れたばかりの肌に、まだかすかに熱が残っていた。
けれどそれ以上に、胸の内を満たしていたのは、知らなかったような深い安堵とやわらかなぬくもりだった。

(……なんだろう、この感覚)

驚くほど身体が軽いことの改めて気付いた。
まるでずっと背負っていた重みが、すっと消えていたかのよう。

張りつくように胸にあった、冷たく沈んだ感覚――

それが今は、不思議なくらいに消えていた。
関節のこわばりも、痛みも、だるさも……ずっと当たり前だった違和感が、どこにもない。

(……最初にキスをした夜も、少し軽くなったけど……こんなに違うなんて)

指を動かし、深呼吸してみる。どこもかしこも、軽やかだった。
レオンの腕に抱かれている安心感だけではない。
もっと奥深く――身体の芯から洗われたような、不思議な感覚。

まるで、長いあいだ霧の中をさまよっていた自分が、ようやく光のもとにたどり着いたような。


そしてふと、今の自分を思い返して、頬に熱がのぼる。

(あんなこと、普段の私じゃ絶対言えないのに……どうしてあんなに大胆になれたんだろう……)

教養を身につける機会のなかったセレナにとって、知識の多くは使用人たちの噂話から得たものだった。

(“痛い”って……そう話してたの、聞いたことあるのに。……あれ? 私、全然……)

ふいにレオンの表情を思い出してしまい、慌てて胸元に顔をうずめる。
それに何も言わず、ただ髪を撫でてくれるレオンの優しさに、心があたたかく満たされていく。

「……セレナ。少し、話したいことがあるんだ」

落ち着いた低い声に、セレナは小さくうなずいた。

「初めて君に触れた夜から、不思議と身体が軽くなってきてるんだ」

レオンの瞳を見つめながら、セレナの胸にもまた、静かなあたたかさが広がっていく。

「……セレナと深く触れ合うことで、より体調が安定している気がする」

「……わたしもそうなの。さっき、身体が前よりずっと軽くなってるのに気づいて……」

レオンは少し考えるように沈黙し、それからゆっくり言葉を紡いだ。

「……俺の呪いについて長年調べてくれている友人がいる。“癒術理院”に所属している、ティオ・アルバレストという男で……。心から信頼できる人物なんだ」

「……」

「彼なら、君の中にある力や、俺との間に起きていることに、何か気づけるかもしれない。もちろん、無理にとは言わない。でも……もしよければ、一度会って、話してみないか?」

レオンの表情は真剣そのもので、どこか申し訳なさそうでもあった。
けれどその瞳には、セレナを思う気持ちが確かに宿っていた。

ティオという名の友人。
レオンの呪いを知り、長く調査してきたという人物。
今の自分に起きている変化の意味を解き明かす鍵になるかもしれない存在。

(……レオンは、私が“聖女”かもしれないって言ってた。疑っているわけじゃないけど、まだ実感がないから……話し聞いてみたい)

“聖女”としての自覚はまだない。
けれど――

身体が、はっきりと応えていた。

(……私にも、できることがあるのなら。レオンを助けられる可能性があるなら、知りたい)

そっと唇を結び、セレナはレオンの腕の中で顔を上げた。

「……会ってみたい。レオンが大切にしてる人なんだよね?」

「……ああ。ちょっと変わってるけど。聖女に関する古文書の解読も頼んでいるから、なにかわかるかもしれない」

そう言ってやさしく微笑むレオンの表情に、セレナはふわりと心をほどかれる。

――レオンの苦しみを、少しでも軽くしたい。
そのために、今できることを、迷わずに選びたい。


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