ルシフェリアは、自室の天蓋付きベッドの上でごろごろと転がっていた。
「……ちょ、え?」
顔を真っ赤にしながら枕に突っ伏し、足でシーツをバンバン蹴飛ばす。
「どういうこと!?……レオン様じゃなくて、私が……好き……?」
ごろん、と仰向けに転がり、天井を見上げたまま固まる。
「いやいや、今までの全部思い返したら……やばい、伏線だらけだったかも……」
そして小さく呟く。
「……私、もしかしなくても……鈍感ヒロインムーブしてた……?」
がばっと起き上がると、枕をぎゅっと抱きしめる。
「嘘でしょ!?そんな勘違いある!?って漫画読みながら散々思ってたのに、いざ自分が当事者になるとマジで勘違いするんだ……」
そんな言葉を一人でぶつぶつ言いながら、ベッドの上で悶えていた。
――そして翌日から。
ティオ様は宣言どおり、本当に毎日のように私の家の前に姿を見せるようになった。
「一目見たくて」
そう言って、門の前で手を振ってくるのだ。
最初は休憩時間にちらっと顔を見せて帰っていくだけだったから、まだ安心していたのに――
数日後には応接室でお茶をしながら雑談するのが当たり前になっていて。
「じゃあ明日も休憩時間にお菓子持ってくるね。今日も会ってくれてありがとう」
気づけば、お父様やお母様、侍女たちともすっかり打ち解けていた。
「ティオ様、奥様からの差し入れです」
「ありがとう」
「……え!?なんでお母様がティオ様の好物知ってるの!? しかもこの前お父様とも二人で楽しそうに話してましたよね!?」
私の知らないところで、気づけば身の回りがどんどんティオ様に侵食されていく。
(……どうしてこうなったの!?)
なのに、本人はまるで得意げに――
「早く僕のこと、好きになってね」
そう言って、にこっと笑ってくるのだ。
私は、ただただ翻弄されるばかりだった。
――研究室に顔を出すと、なんだか空気がいつもと違う。
(……なに、この空気。ちょっと色っぽい……)
やけに距離が近いし、「これ君が好きだったよね」なんて甘いものを差し出してくるし、何より……視線が妙に熱い。
(最近ティオ様と目が合うたびに、心臓が変にドキッとするんだけど……)
そわそわしていると、ティオ様が不意にこちらをまっすぐ見つめてきた。
「君……前に僕の顔、好きって言ってたよね?」
「えっ、そ、それは……はいっ……」
「じゃあ、こういうのも……悪くない?」
そう言って彼の指先がふわりと動き、私の髪を耳にかけてきた。
(近い!距離が近い!顔が良い!……なにこれ、色仕掛けされてるの!?)
「……君が僕を好きになるように頑張ってるんだけど。こういうの、効いてる?」
心臓の暴走を抑えながら必死に口を開く。
「……効いてるって言ったら、どうするんですか?」
一瞬の沈黙。
ティオ様の口元がゆるりと意地悪く笑んだ。
「……今、言ったね?」
「ひっ、ま、まだ言ってません!今のはその、反射的に……!」
頬に手が触れ、指先がやわらかく輪郭をなぞる。
ただそれだけで、体の奥まで熱が広がっていく。
「……僕、待ってたんだよ」
「え……?」
「君が暴走してる間、会えなかったから。……ずっと触れたかった」
甘い声で静かに告げ、唇が頬に近づいて――けれど寸前で止まる。
(ちょ、顔が近い!視線逸らせない!!)
「……ねぇルシフェリア。好きって言ってもらえるまで、僕、毎日こうしてもいい?」
まっすぐに向けられる視線に射抜かれるみたいで――
「……好きだよ、ルシフェリア」
そのまま頬にそっとキスが落ちた。
(~~~~!?!?威力が強すぎる!!)
“推し”として見ていただけのはずなのに、もう視線が外せない。
胸の奥がぎゅっと詰まって、苦しい。
少し視線を逸らし、震える声で言葉を絞り出す。
「……でも、ティオ様。前に私のことタイプじゃないって……」
ティオの表情が一瞬で曇り、まっすぐにこちらを見返してきた。
「……あれはごめん。反省してる。好みとか関係なく、君の事が好きみたい……許してもらうにはどうしたらいい?」
「……じゃあ私の、どこが好きか教えてください」
涙をこらえるような私の目を見て、彼はゆっくりと言葉を紡いだ。
「まず……笑うと顔がふにゃってなるとこ。僕の話を楽しそうに聞いてくれるとこ。ティオ“様”って呼ばれるのも、くすぐったいけど嫌じゃない。すぐ暴走するけど、そこも可愛い」
ルシフェリアの瞳が、次第に潤んでいく。
「……僕をずっと見てくれてたことも嬉しかった。ずっとレオンの呪いを解くためだけに生きて来たから、ルシフェリアが僕自身を見てくれてたの……すごく嬉しかったし、救われた」
最後の言葉はかすかに震えていた。
「……もっと言おうか?」
「……もう、じゅうぶんです……」
顔を伏せる私を抱きしめながら、彼はそっと囁く。
「許してくれる?」
「……少しだけ、です」
安堵したようにティオの肩が緩む。
「誰かのこと恋しく思うのは君が初めてだよ。たぶん君じゃなきゃ、この気持ち知らないままだった。……結構前から好きだったんだよ?」
「えっ……」
「君、鈍感だから気づいてくれなかったよね」
「……っ、それは……」
私の髪を梳きながら、彼は言葉を重ねる。
「そういうところも可愛いけど。もう君への想い、だいぶ強いんだよ。わかってる?……ルシフェリア」
(推しが……こんな甘い声で、すごい熱量で私を推してくるんですけど……)
「……ルシちゃん、好きだよ」
顔は近いし、声は甘いし、瞳は真剣で――
(――ちょっと、待って。ティオ様って、原作じゃこんな感じじゃなかったよね?明るくて人懐っこいけど、どこか冷めたような、そういう距離感だったはずなのに……)
なのに、今目の前にいるティオ様は、私のことを大事にして、こんなに優しくて、甘くて、でもちょっと意地悪で。
まるで私だけの、“誰も知らないティオ様”みたいで――
もうだめ、完全に落ちる。いや、もう落ちてる!?
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