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11.5話 侍女リナの決意と癒しの光──奥様の秘密を胸に

××すぎるんです、公爵様・・・っ!リナ セレナ 侍女リナの決意と癒しの光──奥様の秘密を胸に ××すぎるんです、公爵様・・・っ!
※本作品は過去作をもとに、一部表現を調整した全年齢版です。物語の世界観はそのままに、より読みやすく再構成しています。



生まれは、皇都の北。静かな森に囲まれた、小さな子爵家だった。

――リナは、そこで姉として、そして令嬢として育った。

決して贅沢な暮らしではなかったけれど、両親はいつも誇りを持ち、私と妹を大切に育ててくれた。

私は長女として、「しっかりしなければ」と自分に言い聞かせ、幼いなりに必死で役目を果たしてきた。
泣きたい夜も、たくさんあったけれど。

妹は、私よりも四つ年下の、甘えん坊の女の子だった。
今頃、どうしているのだろう。

私が公爵家に仕えることになった日、彼女は目に涙を浮かべながら「すごいね、お姉様」と言ってくれた。

――でも本当は、寂しさを我慢していたのかもしれない。

公爵邸での勤務が始まってしばらくした頃、急に配属先が変わった。
それは、“奥様付きの侍女”という役職。
まだ顔を見たこともない、新たに迎えられるお方の専属だった。

配属の直前、従者のアレク様が静かに言った。

「その方には、特別な事情がある。噂に流されてはいけません。何を見ても、誰にも話してはいけません」


「……それから、奥様の心を何よりも尊重してください」

ただの従順さでは、務まらない。
そのとき、私はそう悟った。

(……私に、できるだろうか)

不安を胸に抱えながら、奥様を迎える準備に取りかかった――

でも実際にお目にかかった奥様は、傷を抱えているように見えたけれど、穏やかで私に対しても壁を作らない方だった。



ーーほんの少し、縫い針を引っ掛けただけだった。

小さな痛みが指先を走り、私は思わず「……あっ」と声を漏らした。

そのとき――

「大丈夫? 見せて」

優しい声が、すぐそばから降ってきた。
セレナ様の声だった。

(汚いと思われたらどうしよう……)

くだらない不安が頭をよぎって、慌てて手を引こうとしたけれど。
彼女はふわりと私の手を包み込むようにして、静かに言った。

「そんなことないよ、見せて」

その一言が、あまりにも温かくて。何も言えなくなった。
白く細い指先が、私の傷にそっと触れた瞬間。

――光が、咲いた。

花のように淡く、けれど確かに、私の指先に降り注いだ。

(……いまのは?)

幻じゃない。だって、あんなに赤くにじんでいたはずの傷が、すっかり消えていたから。

「セレナ様……今のは……?」


私は思わず問いかけた。
彼女は少し戸惑ったように、それでも微笑みながら答えてくれた。

「わからない。でも……助けなきゃって思っただけ。痛みはもう、ない?」

「はい……ありがとうございます。お水で流してきます、すぐ戻りますね」

そう言って部屋を出たあと、ふと思い浮かんだのは、妹の顔だった。
セレナ様は、あの子に少し似ている。

繊細で、まっすぐで――でもきっと、誰よりも強い人。

(……この人を守りたい)

胸の奥にふわっと灯った想いは、言葉にしなくてもはっきりとわかった。
これは忠義ではなく、もっと自然な感情だった。

たとえ誰にも言えない力でも、私は知っている。
そのことを誇りに思おう。
侍女としてではなく、一人の人間として、奥様の傍にいよう。

秘密を抱えていたとしても、怖がる必要はない。
むしろ私が、奥様の味方であり続けよう。

それがきっと、私にできる“姉”としての役目だから。

深く息を吸い、セレナ様の待つ部屋へと戻っていく。
指先には、まだあたたかさが残っていた。

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